「コンテクストの問題」
ジェシー・バーチ(キュレーター、ナナイモ・アートギャラリー、カナダ)
日時: 2023年2月18日[土] 16:00〜 (90分程度)
会場:会場:4F 絨毯の間
参加料:自由 (ドネーション制)
ジェシー・バーチ氏はカナダ・バンクーバー島の東海岸に位置するナナイモ市でキュレーターとして活動している。大都市・バンクーバーからフェリーで2時間の距離という周縁に位置するナナイモ市は、ヨーロッパ諸国による植民地化以前、先住民族・スヌネイモフ(Snuneymuxw)が5,000年以上に渡って暮らしていた土地だったという。そういった背景を持つ特異な地域社会に向け、アーティストと協働し、展覧会を企画をする意味やその作用、はたまた、その土地にどういったアートの共同体や生態系があるのか聞いてみる。
キュレーターとして、私は文脈に応じた作品に深くコミットしている。それは、忘却されたあるいは過小評価された場所や歴史に関わり、ときに話を聞いてもらえない人々に自信を与え、多様な表現形式を賞賛することだ。この指針を念頭に置いて、私は展覧会を企画し、特異な環境に関連する作品をつくり出すアーティストをサポートしつつ、地域社会の入口となるような領域が生まれることを手助けしている。
私は2014年より、故郷であるナナイモ市に関連したキュレーションを行っている。その人口10万人の小都市は、カナダ・バンクーバー島の東海岸にある先住民族・スナネイモフ(Snuneymuxw First Nation)の領土だった。フェリーで2時間の距離にあるバンクーバーなどの大都市と比べると、ナナイモ市は周縁に位置するものの、豊かな文化や歴史、そして、アーティストのコミュニティがある重要な場所。私はナナイモ・アートギャラリーのチームと協働し、この地のこういった文脈と地域社会を肯定し、強化するような活動を行ってきた。大阪、京都、関西出身の多くのアーティストと同様、ナナイモ市においても、私たちが暮らし働いているこの場所の特異性を強みとして捉えている。
地域に対応したこのようなコンテクストは、この街に築かれた資源産業に関連する3部作から始まった。キュレーションした「Black Diamond Dust」展(2014)、「Silva/The Mill」展(2015/16)、「Landfall and Departure」展(2017/18)は、コンテンポラリー・アートを通じてナナイモ市を国際的な対話の場に置く大規模なプロジェクト。最終的に「Black Diamond Dust」と「The Mill」は、ナナイモ・アートギャラリーとSternberg Press(ベルリン)のコラボレーションにより書籍として出版された。
近年は、アーティストや地域コミュニティに向けた1年間におよぶ問いをもとにした一連の展覧会を手助けしている。その問いかけとは、「島に住むとはどういうことか?」「世代とは何か?」「進歩とは何か?」「私たちはどんな物語を語れるのか?」といったものがあり、さらに今後は、「どのようにして協働できるのか?」といったコレクティブ業務と創造的コミュニティに焦点を当てる予定である。本レクチャーでは、ナナイモ・アートギャラリーで展開されたプロジェクトの中から、当地域を扱ったアーティストたちの実践に焦点を当てる。
アーティストとの生産的な対話とフィードバックは、キュレーター、教育者、そしてライターとしての私の実践の重要な部分となってきている。この地域外のアーティストやキュレーターとの直接的なつながりは貴重なものであり、関西に活動するアーティストやクリエイティブ・コミュニティと交流し、ユニークなコンテクストや実践について学べることを楽しみにしている。
ジェシー・バーチ
《Estuary Walking tour with Nancy Turner and Geraldine Manson》 2019
ジェシー・バーチ(Jesse Birch)
2014年よりナナイモ・アートギャラリーのキュレーター(2014年~)。2001年にエミリー・カー美術大学で美術(写真)の学士号を取得後、2008年にブリティッシュ・コロンビア大学で美術史(批評/キュレーター研究)を修了。2007年には、アムステルダムのde Appelにてキュレーターフェロー、2008年から10年までバンクーバーにあるAccess Galleryの共同ディレクター/キュレーター、2012年から14年までWestern Frontの展覧会キュレーター。また、Or Gallery(バンクーバー)の理事、Pacific Association of Artist Run Centres(アーティスト・ラン・センター太平洋協会)にも積極的に参加。これまでC Magazine、Yishu、fillipなど数多くの展覧会カタログやアート雑誌に寄稿し、ウィンザー美術館に寄せたアーティストKika Thorneのエッセイでは、オンタリオ美術館協会よりArt Writing Awardを受賞。2009年から13年まで、エミリー・カー美術大学の批評・文化研究学部で教鞭をとり、ナナイモの南方にある日本人陶芸家・山本幸雄(1925〜2000)が設計・製作した登り窯を管理するTozan Cultural Societyの代表を務める。
「周縁における協働性と生態系について共有するトークシリーズ」とは
「周縁における協働性と生態系について共有するトークシリーズ」は、世界各地の周縁におけるアートシーンの協働性と生態系(エコシステム)がいかに運用されているのかを共有する機会を設け、大阪の「創造環境/アートシーン」を相対化するトークシリーズです。「芸術のインフラストラクチャーの地盤がさほど強くない地域」における実践を広くシェアし、合わせ鏡のように自らの像を見つめる機会をつくります。同じく辺境で芸術を社会に定着させようとする文化実践者たちと繋がり、来たるべき未来に向けて連帯を促すようなトークイベントとなります。